おたくの夢「サイゼン」
幕間の帝劇ロビーに伸びる、長蛇の化粧室列、後ろのおたくの会話が聞こえてきた。
「一回は最前行きたいよね~」
ジャニーズを応援するようになって、コンサートや舞台を見に行くようになると、どこかしらで「最前(さいぜん)」という単語が聞こえてくることはしばしばである。
けれど、おたくがよく言う頭高型アクセントの「サイゼン」には、まだ耳慣れない。
おたくのサイゼンは、コンサートや舞台における一番前の座席、つまり最前列を指すものだ。サイゼンのチケットすなわち好きなアイドルを最も近い距離で見る権利であり、サイゼンは大好きな彼を双眼鏡なしで細部まで見ることができるおたくにとって夢の場所である。
私は「最前(さいぜん)」のアクセントは平板型だと思っていた、というか今もまだそう思ってる。
さいぜん
「さ」が低くて「いぜん」が高い形で、そのあとにつく助詞も同じ高さになる。
いちおうNHKのアクセント辞典も紐解いたけど、
ほらね!
一方でおたくのサイゼンは、
―┐
サイゼン
「サ」が高くて「イゼン」で落ちる(アクセント記号ちょっとずれてるけど気にしない!)。
まるで一般的な「最前(さいぜん)」とは意図的に分けられた固有名詞みたいで、おたくの特別な思いがつまっているような気がする。
「サイゼン」と同じアクセントの4拍語って何があるだろう?って考えたとき、私が一番最初に思い当たったのはこれだった。
―┐
フジサン(富士山)
こ、これか………………
富士山(フジサン)といえば、日本人にとって一度は登ってみたい、日本で最も高い山。最前(サイゼン)といえば、おたくにとって一度は座ってみたい、会場で最も近い席。
そうか……サイゼンとは、フジサンだったのか……となんともへんてこなところに着地したところでこの頭の悪い文章を終わる。おあとがよろしいようで。